少年サッカーのトレーニングにおける心理的要素の重要性

少年サッカーとは主に小学生年代までのサッカーを指し、使用されるボールのサイズもピッチの大きさも異なるため、通常の「サッカー」とは区別されます。
また、現代では試合自体も8人制が導入されておりルールの面でも大きく異なります。

少年サッカーにおいて、ボールサイズやピッチサイズ、ルールが異なる一番の理由は身体が小さいため通常のサッカーでは負荷が大き過ぎ、危険だからです。
また、広すぎるピッチ・多すぎる人数では子供達がボールに触る機会が減り、集中力が高くないこの年代の子供たちは飽きてしまい楽しめないということも理由の一つです。

今回はそんな通常のサッカーとは異なる「少年サッカー」でのトレーニングについて考えてみたいと思います。

オーストラリアでの少年サッカー年代の育成

オーストラリアでも同様にU12までの年代を、代表チームの愛称である「サッカルーズ」にちなんで「ミニルーズ」と呼ばれ区別されています。また指導においては、より細かく分類されており、5歳から9歳までを「発見期」、10歳から13歳までを「技術習得期」と呼んでいます。

「発見期」では子供たちにサッカーを知ってもらい、楽しんでもらうことが最大のテーマとされています。クリケットやラグビー、オーストラリアフットボールなどの様々なスポーツに人気が分散しているオーストラリアでは、「発見期」にどれだけ多くの子供たちにサッカーを好きになってもらうのかがとても重要になります。

「技術習得期」では、サッカーにおける基礎技術を習得することがテーマとされており、基礎技術とは以下の4つ定義されています。

1、蹴る技術 (Striking the ball)
2、ファーストタッチ(First touch)
3、1対1(1v1)
4、ドリブル(Running with the ball)

この年代では戦術面ではなく、個人技術の向上に集中する必要があり、その重要性は「日本ではこの年代をゴールデンエイジと呼んでいる」とサッカー協会のコーチング教本に記載されております。

少年サッカー年代の指導がユース年代よりも難しい理由

少年サッカーのトレーニングでは、他の年代よりも考慮すべきポイントが多くあります。
小学生年代では選手による成長差が顕著であり、また生まれ月による成長差というのもそれ以降の年代に比べると影響が大きくあります。
また、少年サッカーでは男女が共にプレーすることが基本ですが、この年代では女の子の方が成長が早いことも注意が必要です。
実際に、私のクラブが行っている小学生向けのサッカークリニックではかなりの体格差があるため練習のペアやチーム分けの際には体格差を考慮するようにしています。
また、成長差というのは身体的なことに限らず精神的な面にも同じことが言え、集中力や忍耐なども選手によって異なることも理解する必要があります。
そして、身体・精神的成熟度が違うだけでなく、少年サッカーでは選手間での技術レベルややる気が大きく異なることもよくあることです。

多くの子供の中からセレクションを行って選手を選ぶようなチームでもない限りは、子供たちがサッカーをする理由はそれぞれ異なるでしょう。友達が所属しているから、親に入れさせられた、なんとなくサッカーが好きだからなど様々です。
そのため、この年代を指導するにあたっては、「選手たちが必ずしもサッカーがうまくなりたいと思っているわけではない」という点は忘れてはいけないでしょう。

「楽しむ」ことで未来につながる

少年サッカー指導において一番大切なのは「サッカーを好きになる」ことです。
上記で述べたように、選手みんなが「サッカーが好き」「うまくなりたい」と思っているわけではありません。そういった選手にサッカーを好きになってもらう、またすでにサッカーが好きな子供にはサッカーの奥深さを体験してもらい、もっと好きになってもらうことが重要です。

今はそんなにサッカーが好きではない子供が、サッカーを大好きになることも全く珍しいことではありません。そして、サッカーを好きになって自主的にサッカーに取り組むようになると選手としての成長は飛躍的に早まり、将来すごい選手になることもあるでしょう。

また、例え将来サッカーを続けなくても、この年代でサッカーを好きになってもらうことで、将来サポーターやコーチとしてサッカーに関わるかもしれませんし、自分の子供にサッカーを薦めるかもしれません。そうすることにより将来的な「サッカーファミリー」の拡大、そしてサッカー文化が日本にも根付いていく礎になると信じています。

楽しみの中にも求められる「競争意識と規律」

私は「ゆとり世代」と呼ばれる世代の一代目ですが、日本に限らず、オーストラリアでも子供教育における「競争意識の欠如」や「規律の低下」が問題となっています。
現代の子供たちは競争をすることを好まず、勝利に対する欲も低いと言われており、また教育・指導に携わる大人たちは社会の目が厳しくなっていることもあり、子供に厳しく接することが難しくなっています。
「楽しむ」ことが最需要である少年サッカーで、「競争意識」と「規律」という側面は不要のようにも思えますが、せっかく少年サッカーを通じて技術的にも向上し、サッカーを好きになってもらっても、この2つのポイントを伸ばしておかないと将来サッカーを続けることが難しくなってしまいます。
特に「競争意識」と「規律」は後付しようとすると選手はとても苦痛に感じてしまい、サッカーを嫌いになってしまうという最悪の事態も起こりえます。
しかしトレーニングを通して、挨拶や整列、荷物の整理などを徹底させることにより、楽しみながらも自然と「規律」を身につけることができます。
「競争意識」と言うのも、トレーニングの中で「勝った選手にはみんなで拍手」や「負けた選手にちょっとした発破をかける」などの勝負に対する小さな意識付けを幼いころから行うことで強制することなく「競争意識」を養うことができるでしょう。

少年サッカー指導が最も重要であり最も難しい

今回、U18やU15での指導を通じて感じた少年サッカーでの育成ポイントや、イングランドとオーストラリアのコーチングコースで学んだ知識を基にまとめさせていただきましたが、
執筆しながら改めて少年サッカーの指導は大変であり、難しいと考えさせられました。
そんな大変で複雑な少年サッカー年代での指導なくしては、日本サッカーのさらなる発展はありえません。
そして、実際にアジアにおいて日本のジュニア育成が高く評価されており、オーストラリアサッカー協会も指導教本の中でも触れるほどです。
おそらく、その最大の要因は多くの指導者がシェアトレなどを通じてコーチングの勉強をしたりと、日本の指導者の方の向上心の高さにあるのだと思います。

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