私は普段指導をするにあたり、感覚的に違和感を覚えたことは論理的に原因を追求して、説明するように心がけています。
それは、ボールの蹴り方などに限らず走り方などの一般的な動作でも同様です。
しかし、それでもうまく説明ができないときや、説明してもどうしても改善されないといった時にどうしても「運動神経」ということが頭に浮かんでしまいます。
「運動神経が悪いから」という結論に達するということは指導を放棄するに等しいことですので、とにかく様々な角度からアドバイスするようにはしていますが、それでもサッカーのコーチをしている限り「運動神経」という存在を認めざるを得ません。
医学的には、運動神経というのは筋肉の動きに指令を送る神経の総称ですが、日常で使用する「運動神経」とはあまり関係がありません。
では、スポーツのときによく口にする「運動神経」とはどういったものなのでしょうか?
普段用いる「運動神経」とは、運動行うための能力といった意味合いで使われることが多いと思います。
では、具体的には運動神経とはどういった能力のことを指すのでしょうか?
コーディネーション能力=運動神経
旧東ドイツにて、一流アスリートを輩出するべく国を挙げた研究が行われ、神経生理学者であるニコライ・ベルンシュテインにより、運動能力、いわゆる「運動神経」というのは以下の7つの能力に分けられるとされています。それらが「コーディネーション能力」と呼ばれるものです。
1、バランス能力
2、連結能力
3、反応能力
4、定位能力
5、変換能力
6、識別能力
7、リズム能力
「バランス能力」とは、日頃からバランス感覚と言われ、馴染みがあるかと思いますが、どんな姿勢状況でもバランスを崩さない、または崩れたバランスを素早くもとに戻す能力です。サッカーでは、ディフェンスに相手に逆を突かれたときや攻撃時にタックルなどのバランスを崩された際など様々な状況で必要とされます。
「連結能力」とは、関節や筋肉を自在に操り、無駄なく思い通りの動作を行うための能力です。走るとき、ボールを蹴る止めるなど常に必要とされ、練習時に感じる選手による差の大きな原因となります。
「反応能力」とは、視覚、聴覚、触覚など様々な形で受けた合図に対し、正確かつ素早く反応する能力です。ディフェンスからオフェンス、トラップからシュートまで様々なシチュエーションで必要になります。
「定位能力」とは、いわゆる空間把握能力と呼ばれる能力で、空間・人・物の位置関係を正しく把握する能力です。サッカーでは、パスを出す相手を見つけるときや、正しいポジションを取るために必要とされます。
「変換能力」とは、状況にあった動作を素早く実行する能力です。1対1でのディフェンスやオフェンスなど相手の反応を観察し、それに応じたプレーをする際に必要です。
「識別能力」とは、最近では「ハンド・アイコーディネーション」とも呼ばれる視覚で捉えた物を処理するために、手足などの動きを調整する能力です。トラップから、パス、シュート、ドリブルまでボールを扱う際に必要となります。
「リズム能力」とは、名前のごとく、身体をリズムよく動かす能力であり、視覚・聴覚で取得した情報を動作によって再現する能力でもあります。ドリブルやディフェンスの際は、練習時に新たなスキルを身につける際に必要です。
コーディネーション能力の向上方法
上記の7つのコーディネーション能力を向上させるために行われるのが「コーディネーショントレーニング」です。
トレーニングを行う上で最も大事なことは、7つの能力のうち複数を同時に使うことです。例えば、ただリフティングを行うのではなく、笛を1回吹いたら次はヘディングをする、2回吹いたらボールを止めて他の選手とボールを交換するというルールを加えることにより、「識別能力」と「反応能力」、さらに「変換能力」が同時に必要とされます。
また、応用性もコーディネーショントレーニングを行う上で重要なポイントです。同じ練習を繰り返すのではなく、上記のリフティング練習でも次に行う際は合図を変えたり、行う動作を変えることにより、サッカーで重要なコーディネーション能力をより発達させることができます。
そして、全員同じメニューをこなすのではなく、選手によって難易度を調整し、常に難しいことに挑戦させることも能力を高める上では重要になります。
コーディネーション能力が一番伸びると言われているのが10歳から13歳(正確な年齢は研究によってバラつきがあります)ですが、なるべく早い段階から行うべきでしょう。
逆にそれ以降の年代でも有効ではあるようですので、ウォーミングアップのメニューなどを考える際にコーディネーショントレーニングの要素を取り入れてもよいと思います。
おわりに
具体的な練習メニューは是非シェアトレの動画を参考にしてみてください。
そして、サッカーのコーディネーショントレーニングでは応用性が重要になるので、気に入った練習メニューがあれば、そこから7つのコーディネーション能力を意識した上でアレンジすることにより更によい練習になると思います。