ネットの発達による情報へのアクセスが容易になり、また選手のアスリート化(専門的トレーニングによる身体能力の上昇)により、現代サッカーは急速に発達してきました。
特に戦術面においては、フォーメーションやポジションについても、より複雑になり、ポジションの名前から役割を想像するのが難しくなってきました。
例えば、サッカーでミッドフィルダーと聞いて、みなさんならどのようなプレーを想像しますか?
もしサッカー育成年代の選手に、ミッドフィルダーとしての役割を説明するとき、どのように役割を伝えますか?
もちろん、チームの取る戦略やプレーモデルといった戦術的な要素によって、役割は多少変化します。
ただし、あくまでも育成年代です。
現在の勝利が必ずしも子どもたちの未来の勝利に繋がるとは限りません。
育成年代含めたピラミッドの頂点のトップクラスの選手たちは、一般的にどのようなことを求められているのでしょうか?
現在育成年代のミッドフィルダーの選手たちは、トップクラスから逆算し何が求められるかを、現代サッカーの兆候を元に考察していきましょう。
答えがなく、一体何を正解として伝えたら良いのか分からないこともあると思います。
そのような指導者の方々に、子どもたちに伝える時のヒントに、少しでもなってくれたらと思います。
切り替えゼロ秒。速くなった現代サッカー
現代サッカーが急速に発展しているのは先ほども申しました。
その一つとして、ボールを奪ってから、相手の守備陣形が整う前にゴールを目指す方法が、より洗練されてきたことです。
特にヨーロッパでは、サッカーで「トランジション(切り替えの意味)」という概念が用いられ、守→攻、攻→守の瞬間に取るチームの行動が、戦術の中でかなり整備されてきました。
つまり、ボールを奪ってから、あっという間にゴールを奪う方法を身に付けたチームが出てきたと言うことです。
ゴールから逆算し、守備の段階からボールの奪いどころを設定し、計算されたカウンターからゴールを奪うチームが増えました。
そんな鋭い攻撃を持つチームに対して、どんな能力を持つ選手をミッドフィルダーとして起用したいでしょうか?
もし中盤に、その鋭いカウンターの芽を摘むことができる選手がいたらどうでしょう?
チームは安心して攻めることができ、最後尾の選手たちの負担を減らすことができます。
そんなミッドフィルダーに必要な能力は、味方が攻めている時も常に危険になり得る場所を「警備」できる能力です。
特に育成年代の選手たちは、攻め続けていると守備のことを忘れがちです。
カウンターを受ける前から守備のことを考え、リスクを管理することができれば、ピンチも未然に防げ、またそこからボールを奪い、2次攻撃、3次攻撃と繋げることができます。
同時に「個」でのボール奪取能力も身につけたいですね。
現代サッカーはボールを持てない。より発達した守備戦術
現代サッカーは、守備戦術の発達により、プレッシャーの強度が上がり、特に中盤では、簡単にボールを持つことが出来なくなってきました。
中央を支配されると言うことは攻撃側からすれば、右、左、そして中央から攻めることができ、守備の的をなかなか絞ることが出来なくなるからです。
中央を支配されないがために、チーム全体の陣形をコンパクトにし、中盤のスペースを無くし、ミッドフィルダーがプレーする「時間」と「空間」を奪ってしまったというわけです。
その流れから、チームとしてサイドを起点に攻撃を組み立てるチームが増えました。
いわゆる「10番」的な選手はサイドに追いやられたというわけです。
ただ、それでもサッカーにおいて中央でボールを持てるミッドフィルダーは必要です。
サイドだと、どうしても攻撃の選択肢が絞られてしまいます(それでもサイドから崩す素晴らしい選手もいます)からね。
よって、少ない時間と狭いスペースの中でプレーができる技術、判断力がミッドフィルダーには求められます。
また、プレッシャーはディフェンスラインからの攻撃の組み立てであるビルドアップ段階から及ぶようになってきました。
そんな時に、ディフェンスラインをサポートすべく、適切なタイミングとポジションを取って、「ビルドドアップの出口」となれる能力も大切です。
攻撃の糸口が見つからない狭いサイドで「タイミング良く」ボールを受け、「素早くターン」し、「正確で強いキックで」サイドチェンジするプレーも、カギ括弧で括ったような技術と判断を要します。
ミッドフィルダーこそ得点を取ろう
先程の話にも繋がりますが、現代サッカーの守備戦術は大きく進歩を遂げました。
特に割り切ってゴール前を固められてしまうと、いくら優秀なストライカーがいようと、ストライカーが活躍するスペースを初めから埋められているので、得点を取るのは容易ではありません。
そんな時に頼りになるのはミッドフィルダーの選手です。
サッカーでミッドフィルダーの選手は、もともとキックの能力が高かったり、スペースを見つける能力が高いことが多いです。
もしあるのならば、その能力を活かさない手はないですね。
ディフェンスの選手は、初めから自分の近くやゴール前の選手を警戒するのは容易いでしょう。
しかし、思いもよらないタイミングで後ろからゴール前に入られると、捕まえるのは容易ではありません。
日本のサッカーの育成年代のミッドフィルダーを見ていると、テクニックに非常に優れていて、パスのセンスはあるのに、ゴールへ向かうプレーが少ないということが良く見受けられます。
プレーの幅を広げるためにも、ミッドフィルダーにもしっかりゴールは意識させたいですね。
実際この前の日本代表のW杯最終予選、オーストラリア戦でW杯行きを決定付けたのは、「ミッドフィルダー」の井手口選手のゴールでしたからね。
まとめ
簡単にまとめると
・中盤を突破させない守備力
・厳しいプレッシャーの中でも「息ができる(プレーできる)」能力
・ここぞという時に得点を狙える能力
となります。
現代サッカーは全選手の「ミッドフィルダー化」が進んでいます。
フォワードの選手でも、献身的な守備が求められるし、ゴールキーパーでさえ、足元の技術を駆使して、チームの攻撃に参加しなければなりません。
もちろん、チームの特徴によって求められることは多少変わりますが、ミッドフィルダーに必要な能力はフィールドの全選手に求められるようになってきています。
そのうちポジション表記という概念も無くなるのでは、と思ってすらしまいます。
実際、サイドバックの選手ですら、試合の中で中盤にポジションを取り、ミッドフィルダーとして振舞うことも出てきましたから。
そのことを考えても、育成年代の指導者は、現代サッカーの兆候を知っておいた方が良いのかも知れません。
幸い日本の少年サッカーでは、少人数制が推奨され、一般的な公式戦は8人制で行われています。
8人制サッカーは人数とスペースの関係から、一人一人がボールに関わる機会が多く、攻守の入れ替えが激しくゴール前でのプレーが多いです。
よって、8人制に限らず少人数制のサッカーは、これからのミッドフィルダー、もっと言えば良いサッカー選手を育成するのに相応しい教材ですね。
もちろんそのためには、現代サッカーの兆候と、ミッドフィルダーが求められる能力を把握する必要があります。
そして子どもたちの能力を見極め、未来のために必要かを考え、すぐに答えを言うのではなく問いかけてあげてください。
自分の頭で考えることは非常に大切です。
そしてそれが、ミッドフィルダーに必要な「インテリジェンス」を養うことにも繋がります。
長所は認めてあげつつ、未来のために素晴らしいミッドフィルダーを育成してあげてください。
NEXT井手口はみなさんの関わった子供たちなのかもしれませんから。