「選手がなかなかやる気になってくれない」
「選手よりも指導者や親の方が熱量がある」
などの悩みを、指導者の方から多くいただきます。
ではどうしたら子供達のやる気やモチベーションはあがるのでしょうか?
今回は筑波大学蹴球部メンタル班のアドバイザーでもある、スポーツ心理学専攻の稲垣さんにお話を伺いました。
理想的な練習とは
理想的な練習とは,選手全員が高いモチベーションを持って,前向きに練習に取り組んでいる状態ではないでしょうか。
せっかく良い練習メニューを準備しても,選手のモチベーションが低ければ,上達はあまり期待できません。
私が専門とするスポーツ心理学では,スポーツ活動に関わる様々な要因を「心」の側面から研究し,その知見に基づいた実践をしています。
「心」の側面といっても,試合本番でのあがり対策だけでなく,モチベーションに関することや,目標設定,チームビルディングなど,スポーツ心理学が扱う領域は広く,スポーツ活動の充実に貢献する情報が数多くあります。
今回はそのような情報の中から,モチベーションに関する研究をご紹介します。
自己決定の程度がモチベーションに影響する!
モチベーションに関する有名な理論に「自己決定理論」(デシ & ライアン, 2000)というものがあります。
心理学の世界では,モチベーションという言葉は『動機づけ』とも言われ,大きく分けて『内発的動機づけ』と『外発的動機づけ』の2種類があります。
『内発的動機づけ』は,「楽しいから練習する」,「好きだから練習する」など,活動そのものが目的となっている場合のことを指します。スポーツ活動をするうえで理想的な状態ですね。
一方,『外発的動機づけ』は,「コーチにやれと言われたから」,「練習しないと叱られるから」,「自分の目標を達成するため」など,他の目的を達成するための手段として活動している場合を指します。
自己決定理論では,内発的動機づけと外発的動機づけは対立するものではなく,自己決定の程度によって連続的にとらえることができると説明しています。
また,外発的動機づけにも,4つの段階があり,自己決定の程度が高いほど,内発的な動機づけに近づいていきます。
図 自己決定理論の概要(Ryan & Deci, 2000;櫻井, 2012を著者が改変)
つまり,外発的動機づけがすべて悪いというわけではなく,自己決定の程度が高いほど,より前向きに練習に取り組むようになる,ということです。
練習へのモチベーションを高めるためには?
練習へのモチベーションを高めるためには,選手自身が主体的にその練習メニューをやっていると感じることが重要になってきます。
そのための方法として,
練習の意図をしっかり説明して,どのようなスキルを高めるための練習かを十分に理解してもらう。
選手自身に試合や練習の振り返りを通して,どんな練習をしたいか提案してもらう。
選手からの練習メニューの提案が難しい場合は,指導者がいくつか練習メニューを用意して,その選択肢の中から選んでもらうことで,自己決定の程度を高める。
といった工夫が考えられます。
どのような方法にしろ,指導者から練習メニューを一方的に与えるのではなく,選手と積極的にコミュニケーションをとり,どのような練習が必要かを考えさせ,選手が発言する機会をもうけることが大切だと思います。
ここで,スペインのアスレチック・ビルバオというチームで活躍する心理学の専門家,マリア・ルイスさんの言葉を紹介します。
コーチングとは教育です。
教育の目的は,自立を促すこと。
つまり,主体的に考え,自ら成長できる選手を育成すること。
そのためには,
・選手に成長したい,上手くなりたいという強い欲求を起こさせる
・自らの学び・成長(人生)に責任を持たせる
ことが重要です。
そして,選手自身に
考えさせ,話をさせ,学ばせる
成長・学びとは,外から与えられるものではなく,選手自身の内側から生まれるものです。
将来,どのようなカテゴリーでも活躍できる選手とは,「心・技・体」がすべてそろった選手だと思います。
「技術」や「体力」だけでなく,選手の「心」にもぜひ目を向けてみてください。